平成25年度 相続税・贈与税の改正ポイント

平成25年度税制改正に関する法律「所得税法等の一部を改正する法律案」が、平成25年3月29日に、国会(第183回)で可決・成立しました。
相続税については、格差是正、富の再分配機能強化の観点から、基礎控除が引き下げられるとともに税率構造等の大幅な見直しが行われます。
同法律案の「新旧対照表」などを基に、相続税・贈与税の改正ポイントをご案内します。

相続税の基礎控除 (相法15条)

 相続税の基礎控除はこれまで数度の改正を経て拡大されて来ましたが、今回の改正案においては相続税の課税ベースを拡大するために、次のように引き下げられます。

 政府税制調査会で示された資料によると、改正前における被相続人100人に対する課税対象者は4人程度ですが、この改正により、6人程度に上昇する見込みです。

 例えば、被相続人が地価の高い都市部に自宅を所有しているだけでも、改正後の基礎控除額を超えてしまい、課税対象者となる場合などが想定されます。

改正前改正後
定額控除5000万円3000万円
法定相続人比例控除1000万円×法定相続人の数600万円×法定相続人の数

相続税の税率構造 (相法16条)

高額の遺産取得者を中心に相続税の負担を求める観点から、税率区分が6段階から8段階に変更され、6億円超の部分については最高税率が50%から55%に引き上げられ、また、1億円超3億円以下の部分で40%とされていた税率は、2億円超3億円以下の部分については45%に引き上げが行われることになります。

改正前改正後
法定相続分に応じる
取得金額
税率控除額税率控除額
~1000万円以下10%10%
1000万円超
~3000万円以下
15%50万円15%50万円
3000万円超
~5000万円以下
20%200万円20%200万円
5000万円超
~1億円以下
30%700万円30%700万円
1億円超
~2億円以下
40%1700万円40%1700万円
2億円超
~3億円以下
40%1700万円45%2700万円
3億円超
~6億円以下
50%4700万円50%4200万円
6億円超~50%4700万円55%7200万円

未成年者控除と障害者控除 (相法19条の3、19条の4)

相続税額から一定額を差し引く未成年者控除・障害者控除については、控除額が長年据え置かれてきており、物価動向や今回の基礎控除等の見直しを踏まえ、引き上げられます。

改正前改正後
未成年者控除20歳までの1年につき6万円20歳までの1年につき10万円
障害者控除85歳までの1年につき6万円
(特別障害者については12万円)
85歳までの1年につき10万円
(特別障害者については20万円

贈与税の税率 (相法21条の7)

 贈与税について、相続税の税率構造の改正に対応した見直しが行われる一方で、高齢者の保有資産の現役世代への早期移転を促し、消費拡大や経済活性化を図る観点から、直系卑属(20歳以上)への贈与に係る税率構造を緩和する特例が新設されます。

 この改正によって、現行は1つだけの贈与税率が、次のとおり『一般贈与財産』の場合と直系尊属から贈与を受けた場合の『特例贈与財産』の場合の2つになります。

 そして、相続税の税率構造の改正に対応し、最高税率が50%から55%に引き上げられ、また、税率区分は6段階から8段階に変更されます。

一般贈与財産

改正前改正後
基礎控除後の
課税価格
税率控除額税率控除額
~200万円以下10%10%
200万円超
~300万円以下
15%10万円15%10万円
300万円超
~400万円以下
20%25万円20%25万円
400万円超
~600万円以下
30%65万円30%65万円
600万円超
~1000万円以下
40%125万円40%125万円
1000万円超
~1500万円以下
50%225万円45%175万円
1500万円超
~3000万円以下
50%225万円50%250万円
3000万円超~50%225万円55%400万円

直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例 (措法70条の2の4 新設)

 20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた財産に係る贈与税の税率構造を緩和する規定が租税特別措置法に新設されます。

 この改正によって、父母から子、祖父母から孫などへの贈与税が緩和されることになります。

特例贈与財産

基礎控除後の課税価格税率控除額
~200万円以下10%
200万円超
~400万円以下
15%10万円
400万円超
~600万円以下
20%30万円
600万円超
~1000万円以下
30%90万円
1000万円超
~1500万円以下
40%190万円
1500万円超
~3000万円以下
45%265万円
3000万円超
~4500万円以下
50%415万円
4500万円超~55%640万円

『特例贈与財産』のほかに『一般贈与財産』がある場合の調整計算規定について

同一年中に、直系尊属から贈与を受けた特例贈与財産とそれ以外の一般贈与財産がある場合の贈与税額の計算については、措置法第70条の2の4第3項(新設)で、次のように規定されています。

≪調整計算規定≫

贈与税額 =「第一号」で計算した金額 +「第二号」で計算した金額

「第一号」=[{(特例贈与財産 + 一般贈与財産)-110万円}
× 特例贈与財産に係る税率-控除額 ]
× 特例贈与財産 / (特例贈与財産 + 一般贈与財産)

「第二号」=[{(特例贈与財産 + 一般贈与財産)-110万円}
× 一般贈与財産に係る税率-控除額 ]
× 一般贈与財産 / (特例贈与財産 + 一般贈与財産)

*一般贈与財産の価額について、同財産の中に贈与税の配偶者控除の適用
を受ける財産がある場合には、一般贈与財産の価額から贈与税配偶者控除
額(2000万円)を控除後のもの。

例えば、同一年中に、父(直系尊属)からの800万円(特例贈与財産)と、叔母から200万円(一般贈与財産)の贈与を受けた場合には、次のような計算を行うことになります。

「第一号」=[{(800万円+200万円)-110万円}×30%-90万円]

× 800万円 / (800万円+200万円)

141.6万円 …①

「第二号」=[{(800万円+200万円)-110万円}×40%-125万円]

× 200万円 / (800万円+200万円)

46.2万円 …②

贈与税額=①+②=141.6万円+46.2万円=187.8万円

以上のとおり、「第一号」については『特例贈与財産』に係る税率で計算し、「第二号」については『一般贈与財産』に係る税率で計算し、それぞれの贈与財産の価額が合計贈与価額(=特例贈与財産+一般贈与財産)のうちに占める割合を乗じて各号の計算を行うことになります。

小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69条の4)

基礎控除の引下げ及び税率構造の見直しが行われた結果、地価が高い都市部では増税の影響が大きくなり過ぎる懸念があり、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例について、居住用宅地の限度面積を拡大するとともに、居住用宅地と事業用宅地の完全併用を可能とする拡充が行われます。

改正前改正後
限度面積限度面積
A事業用400㎡以下ABC
限定
併用
400㎡以下A・B
完全
併用
可能
B居住用240㎡以下330㎡以下
C貸付用200㎡以下200㎡以下AB・C
限定
併用
限度面積
要件
(併用の場合の調整式)
A+B×5/3+C×2≦400㎡
(Cと併用の場合の調整式)
A×200/400+B×200/330+C≦200㎡

一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるもの(例えば、家屋の内部で行き来することができない構造など。)について、被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したその敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分は、同居しているものとして、特例の適用ができるようになります。

老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷の用に供されていた宅地等は、次の要件が満たされる場合に限り、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例の適用ができるようになります。

イ 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。
ロ 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。

相続時精算課税制度(相法21条の9、措法70条の2の5)

 贈与者の年齢要件が65歳以上から60歳以上に引き下げられ、受贈者に20歳以上の孫が追加されます。

 この改正によって、贈与者が60歳以上であれば適用可能となり、また、父母だけではなく、祖父母からの贈与も同制度の対象に加わることになります。

改正前改正後
贈与者65歳以上60歳以上
受贈者20歳以上の子である推定相続人
(代襲相続人である孫を含む。)
20歳以上の子である推定相続人
20歳以上の孫

* 年齢は、贈与の年の1月1日現在のもので、推定相続人であっても贈与者の直系卑属であるものに限ります。

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(措法70条の2の2新設)

高齢者の保有する資産を現役世代により早期に移転させ、その有効活用を通じて「成長と富の創出の好循環」につなげるためのひとつとして、子・孫に対する「教育資金」の贈与について、贈与税を非課税とする措置が新設されます。

項目内容
制度の概要祖父母(贈与者)が、金融機関に子・孫(受贈者)名義の口座等を開設し、教育資金を一括して拠出した場合、この資金について、子・孫ごとに1,500万円までを非課税(贈与税の課税価格に算入しない。)とする。
贈与者受贈者の直系尊属(両親・祖父母・曾祖父母)
受贈者贈与者の直系卑属(子・孫・曾孫)
(受贈者の年齢が、受贈者の直系尊属と金融機関とで交わす「教育資金管理契約」を締結する日において30歳未満の者に限る。)
財産価格受贈者1人につき1,500万円(そのうち学校等以外については500万円)までの金銭又は金銭等
教育資金(1)学校等(幼稚園・保育園・小中高・大学・専修学校など)へ直接支払われる入学金、授業料など
(2)学校等以外(学習塾・予備校・ピアノ教室・水泳教室など)へ直接支払われる授業料、習い事の月謝など
金融機関信託銀行を含む信託会社、銀行及び金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)
申告「教育資金非課税申告書」を金融機関を経由し、信託がされる日、預貯金等を預入する日又は有価証券を購入する日までに、受贈者の納税地の税務署に提出しなければならない。
払出の確認・受贈者は、払い出した金銭を教育資金に充てた領収書等を金融機関に提出しなければならない。
・金融機関は、領収書等により教育資金に充てられたことを確認し、記録し、当該領収書等を受贈者が30歳に達した日の翌年3月15日後6年を経過する日まで保存しなければならない。
「教育資金
管理契約」
の終了時
(1)受贈者が30歳に達した場合
イ 調書の提出
金融機関は、本特例の適用を受けて信託等がされた金銭等の合計金額(以下「非課税拠出額」という。)及び契約期間中に教育資金として払い出した金額の合計金額(学校等以外の者に支払われた金銭のうち500万円を超える部分を除く。以下「教育資金支出額」という。)その他の事項を記載した調書を受贈者の納税地の税務署長に提出しなければならない。
ロ 残額の扱い「非課税拠出額」から「教育資金支出額」を控除した残額については、受贈者が30歳に達した日に贈与があったものとして贈与税を課税する。
(2)受贈者が死亡した場合
イ 調書の提出金融機関は、受贈者の死亡を把握した場合には、その旨を記載した調書を受贈者の納税地の税務署長に提出しなければならない。
ロ 残額の扱い「非課税拠出額」から「教育資金支出額」を控除した残額については、贈与税を課さない。

非上場株式等に係る相続税等の納税猶予制度(事業承継税制)関係

会社の後継者が先代の経営者から非上場会社の株式を譲り受けた際の、相続税等の負担を軽くする事業承継税制については、平成21年度の創設以来、当初想定していたほど利用が進んでいない状況にあることなどから、この制度の使い勝手などを高めるための抜本的な見直しが行われます。

1要件の緩和

(1)納税猶予の取消事由に係る雇用確保要件の緩和
現行の、常時使用従業員数の平均が「5年間毎年8割以上確保」から、「5年間平均で8割以上確保」に緩和されます。

(2)後継者の親族間承継要件の廃止
非上場会社を経営していた被相続人の親族である要件は廃止され、親族外の後継者(例えば優秀な番頭さんなど)への相続又は贈与であっても適用対象とされます。

(3)贈与税の納税猶予における先代経営者の役員退任要件の緩和
贈与者の要件のうち、贈与時において認定会社の役員でないこととする要件について、贈与時において代表権を有していないことに緩和されます。

2負担の軽減

(1)利子税の負担軽減
納税猶予期間に係る利子税の割合が現行年2.1%から0.9%(現行)に引き下がるとともに経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)の経過後に納税猶予税額の全部又は一部を納付する場合については当該期間中の利子税が免除されます。

(2)猶予税額の一部免除
民事再生計画等に基づき事業再生を行う場合には、猶予税額を再計算し、税額が一部免除されます。

(3)納税猶予税額の計算方法の見直し
先代経営者の債務等を相続税の課税価格から控除する場合には、非上場株式等以外の財産の価額から控除することとされます。

3手続の簡素化

(1)経済産業大臣による事前確認制度の廃止
相続又は贈与前の経済産業大臣による事前確認制度を不要とし、経営者が突然亡くなった場合にも制度の活用が可能とされます。

(2)提出書類の簡略化
相続税等の申告書、継続届出書等に係る添付書類のうち、一定のものについては、提出を要しないこととされます。

(3)株券不発行会社への適用拡大
株券発行会社について、一定の要件を満たす場合には、株券の発行をしなくても担保提供を可能とし、株券不発行会社にも制度が活用できることとされます。

(4)猶予税額に対する延納・物納の適用
雇用確保要件が満たされないために経済産業大臣の認定が取り消された場合において、納税猶予税額を納付しなければならないときは、延納又は物納の適用を選択することが可能とされます。